コラム

ふるさと納税を受ける自治体に重要な基準、関係人口とは?

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ふるさと納税事業をこれから始めるにあたり、またはすでに始めているとしても、重要になるのは、何を目指すのか、という目標であり、その成否を判断する基準です。

そんなの寄付額が多い方がいいに越したことはないじゃないか、と思うかもしれません。しかし基準が寄付額だけでは、仮に還元率の高い返礼品を出して今年度の寄付額を上げても、返礼品の質や種類が地域とマッチしていないものばかりでは、制度変更や競合自治体との競争加熱であっと言う間に寄付額も地域ブランドも落ち込んでしまう、などというリスクがあります。

ふるさと納税事業を始めるにあたって、寄付額を上げて、返礼品事業者にも利益があり、地域をアピールして、地方活性化につながり、人口が増えて、さらに税収がアップして… と、理想の未来を描くでしょう。しかし、実際の評価基準を誤ってしまうと、数値目標は達成したのに、町がいびつな発展を遂げたり、寄付によって施設はできても、そこに来る人がいない、といったことも起こり得ます。

そこで、いま注目されているのが「関係人口」という指標です。

関係人口とは

“「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉”で、ポケットマルシェを運営する株式会社雨風太陽の代表・高橋博之さんが2016年に提唱した概念です。

現在では地方創生の看板政策となり、国土交通省、総務省、農林水産省、文部科学省、内閣府など省庁横断で関係人口の創出に取り組んでいます。

関係人口関係人口

また、国土交通省では「地域外にあって、移住 でもなく観光でもなく、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続かつ多様な形で関わり、地域の課題解決に資する人などをいう。」とされています。英語では「connected mind」と訳されます。

交流人口/定住人口との違い

交流人口/定住人口との違い

住民票を移した移住者を+1、住民票を移した転出者をー1、それ以外は0というだけでは、定住人口しか指標にできず、地域課題の本質は測れません。

また、観光に来た人、ボランティア活動に来た人、産物を買った人、地域出身で思い入れがある人、地元のスポーツチームや有名人を応援するファンなど、住民票を持っていない地域に何かしらの関係を持つ人がほとんどです。

関係人口とは、定住人口が減っていくという不可逆性の中で、人と物とお金の流れをより細分化して、地域の課題を解決するために必要な要素を見つけ出す試みでもあります。

業務で現地を訪れたり、一部テレワーク就労をしたり、またイベント参加などで訪れて地域産業と関わる「訪問系」関係人口と、訪問や移住はしないが、リモートワークやふるさと納税、通販で産物の購入など、「非訪問系」関係人口に大分されます。

これらの指標を組み合わせて、自治体事業者ごとの課題解決に向けてのKPIを設定することになります。

訪問系関係人口

ふるさと納税、クラウドファンディング、地場産品等購入、特定 の地域の仕事の請け負い、情報発信、オンライン活用

ふるさと納税、クラウドファンディング、地場産品等購入、特定 の地域の仕事の請け負い、情報発信、オンライン活用

【直接寄与型】 産業の創出、商店街の空き店舗有効活用の活動、朝市・マ ルシェへの出店活動、ボランティア、地域資源・まちなみの保全活動、町おこし・村おこしにつながるようなプロジェクトの企画・ 運営、又は協力・支援等

【就労型(直接関与)】 地元の企業・事業所での労働(地域における副業)、農林 漁業への就業、農林漁業者へのサポート(援農等)

【就労型(テレワーク等)】 本業として普段行っている業務や仕事(テレワークなど)、訪 問地域外の業務や仕事(テレワーク/副業など)

【参加・交流型】 地域の人との交流やイベント、体験プログラム等に参加

【趣味・消費型】 地縁・血縁先以外で、地域での飲食や趣味活動等を実施 (他の活動をしていない)

非訪問系 関係人口

ふるさと納税、クラウドファンディング、地場産品等購入、特定 の地域の仕事の請け負い、情報発信、オンライン活用

関係人口を増やすメリット

ふるさと納税を通じて関係人口を増やすことは、自治体や地域にとって以下のようなメリットがあります。

・地域に関心を持ってもらうことで、継続的関係人口となり、経済的互恵関係が生まれる。

・関係人口による経済的恩恵が生まれることで、地域の魅力を切り売りするのではなく残したまま、持続可能な自治体運営が可能になる。

・情報発信をする関係人口が増えることで、地域の情報が広まりやすくなる。

・人的交流により、直接的経済効果だけではなく、新たな技術や考え方も流入し、地方創生の新たな切り口になる。

・移住者/定住人口になってくれる可能性も生まれる。

・関係人口創出、増加のための補助金等が受けられる可能性がある。

国土交通省 国土政策局総合計画課 令和3年3月 ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会 とりまとめ (スライド集)国土交通省 国土政策局総合計画課 令和3年3月 ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会 とりまとめ (スライド集)

関係人口創出の事例/モデル事業

では実際、関係人口の創出によって地域活性化地方創生を試みている中には、どんな取り組みがあるのでしょうか。いくつかの事例をご紹介します。

北海道上士幌町 ふるさと納税による交流促進

北海道東武にある河東郡の上士幌町は、寄付金を積み立てて「子育て・少子化対策夢基金」を設立。

ふるさと納税を活用した子育て支援策で、長年減少していた人口を増加に転じさせました。

関係人口の増加に向けては、クラウドファンディングも積極的に活用したふるさと納税を通じて寄付者を募り、寄付者を対象に首都圏での交流イベントやセミナーへの招待や移住体験モニターの募集を行っています。 このような活動は、移住が前提ではないため、ふるさと納税リターンとして受け入れられやすいという特徴があります。結果的に移住には至らなくても、地域との交流を深める応援者を増やすことで、関係人口を増加させることに成功しています。

町全体としても、上士幌町企画財政課がふるさと納税業務全般を管理し、上士幌町商工観光課が体験住宅などの移住担当業務を所管、移住者モニターの受入を請け負う「株式会社生涯活躍のまちかみしほろ」、商工会やJAなどの業界団体、NPOなどが「上士幌町交流と居住を促進する会」を設立し、官民一丸となって濃淡のある関係人口の受入を継続しています。

岩手県花巻市 物語が紡ぐ花巻への逆参勤交代事業

知名度が92%もありながら、来訪経験など街の理解度は約30%程度と、大きなポテンシャルを秘めている花巻市

ふるさと納税では返礼品だけでなく、寄附者と地域が継続的なつながりを持てるように寄付者には、作業体験と魅力発信誌「モノガタリ通信」の編集体験を提供。物語が、人と物とお金を紡ぎ、継続的なつながりを生むサイクルを模索しています。

また2024年7月には、岩手県内初となる、株式会社ギフティが運営する「旅先納税」を導入。関係人口交流人口に含まれる観光客が、旅行前や旅行中にふるさと納税すると、返礼品として現地の宿泊施設や飲食店などですぐに使える電子商品券「はなまき星めぐりコイン」が発行される仕組みになっています。

現地を訪れる前、あるいは訪問中にこそ寄付を獲得するチャンスという、訪問系と非訪問系関係人口のハイブリッドという視点は他自治体も参考になる点です。

まとめ

関係人口は、まだ提唱されてから間もない概念であり、全国共通の基準として定量的指標とするには、その測定手法も模索されている段階と言えるでしょう。

しかし、ふるさと納税という都市と地方をつなぐ持続可能な「道」を作る上で、どの自治体返礼品事業者にとっても不可欠な考え方であることは間違いありません。

地域や返礼品の特性を理解し、人を中心に、物、お金、そして情報の流れを作る際には計画の重要な部分を占める指標となるでしょう。